アイデアの宝庫 ゲーム&ウオッチ「ドンキーコング」のこと
先日来の「バーチャルボーイ」「テンビリオン」に引き続き、横井軍平さんを偲ぶシリーズ。今回は1982年登場のゲーム&ウオッチ マルチスクリーン「ドンキーコング」について少しだけ。この大ヒット作品、当時を知る方であれば一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。
横井さんが亡くなった1997年10月4日から20年。今も息づく数々のアイデア、そしてゲームの原点と進化を振り返ってみたいと思います。
DSのご先祖様? ゲーム&ウオッチ マルチスクリーン
もしこのゲーム&ウオッチ「ドンキーコング」を初めて見た方がいるのなら、そのほとんどの方が「ニンテンドーDS(2004年/任天堂)」を思い浮かべるのではないでしょうか。同じように、ゲーム&ウオッチ マルチスクリーンを知る方は、ニンテンドーDSを初めて見たとき「ゲ、ゲームウオッチだ!」と度肝を抜かれたのではないかと思います。
それほどに特徴的なのが、同時期に発売された「オイルパニック」と共に現れたこの2画面のコンパクト状の筐体でした。
80年にデビューし、様々な題材をゲームにしてきたゲーム&ウオッチですが、まさかこのような形に進化を遂げるとは当時の誰もが想像もしていなかった、全く新しい形だったのです。
まず、その形状から、横画面を基本としてリリースされてきたゲーム&ウオッチ。それを初めて打ち壊したのは当時の山内社長からの「2つのゲームを同時に遊べないか」という意見だったそうです。そこで生まれたのが「オイルパニック(1982年/任天堂)」で、横井さんによれば「このゲームだけ一つの画面では 表現できない。まさに、これぞマルチ画面あってこそのゲーム」という自信作だったわけですが、その自信作と同じくらい、いやそれ以上のインパクトをゲーム界に与えたのがマルチスクリーン第2作「ドンキーコング」でした。
マルチスクリーンだけじゃない、新しいアイデア
ドンキーコングとそれ以前のタイトルの大きな違いとしては、ハード面に目を向けがちなのですが、実はそのゲーム内容自体が大きく違っていることにお気づきでしょうか。
ゲーム&ウオッチと言えば、誤解を恐れずにいれば「1タイトル=1アイデア(1ミッション)、ミスまでの繰り返し」であったのですが、ドンキーコングは「樽を避ける」「クレーンスイッチの起動」「クレーンへの乗り移り」という3ミッションの複合であり、しかもそれを4度繰り返すことをシークエンスとして、レディの救出という明確なゲームクリアを(もちろんそれが繰り返されはしますが)体験できます。
これは当時としては革命的と言っても差し支えないレベルの出来事でした。
ゲーム&ウオッチ版のドンキーコングは、アーケード版のドンキーコングの25mステージ(鉄骨+樽)と100mステージ(足場落とし)を絶妙なバランスでリミックスし、下画面と上画面でミッションを切り分ける、つまり「ステージ進行」の概念を持たせる事に成功しました。これまでのゲーム&ウオッチタイトルのように「自身の限界に挑戦」ではなく、明らかに目的が「クリアのための攻略」へシフトしたのです。
こういったゲーム&ウオッチの画面内で起きたゲームデザインの大きな変化が、ドンキーコングを大ヒットへ導いたのではないでしょうか。
余談ではありますが、当時のLSIゲームで同様に「ステージ進行」「クリアのための攻略」を持ったエポック社の「モンスターパニック」もドンキーコングと人気を2分すると言ってもよいヒット作となっていました。
そして現代へと受け継がれる「十字ボタン」
さて、このドンキーコング、ひときわ目を引くマルチスクリーンに意識が向きがちですが、やはり注目したいのは21世紀の今にも受け継がれている「十字ボタン」です。これまで左右などの単一方向機能のボタンのみだったゲームウオッチに、ジョイスティックに変わる入力装置として十字ボタンがデビューしたのがこのゲーム&ウオッチ「ドンキーコング」でした。十字ボタンと言えば、今ではゲームコントローラの代名詞のようなものですが、ここがスタート地点だったのですね。
十字ボタンの開発のきっかけは、このゲーム&ウォッチの薄い筐体にどうやってジョイスティックを組み込むか、というところにあったそうです。
私個人としては、ドンキーコングに触れた時、ファミコンに触れた時というのはこの十字ボタンがどんな思いで開発されたかなど知る由もないわけですが、単純にそれまでに体験したジョイスティックより断然遊びやすい! と感じたものでした。
そんな私が「横井軍平ゲーム館 RETURNS」を読んで度肝を抜かれたのは、十字ボタンに関して書かれているこの言葉でした。
十字型のキーだったら、手元を見なくても、指の感触でどっちの方向に入っているかというのがわかる。(中略)十字キーの場合上を押せば、下が浮き上がるでしょう。これが大切なんですね。感触だけで押している方向がわかる。
(「横井軍平ゲーム館 RETURNS」126ページより引用)
そうか。そうだったのか! そういうことだったのか! 「上を押せば、下が浮き上がる」からわかるんだ! これまで無意識に使っていたものの心地よさの源が、はっきりわかる形で示されて、非常に感動しました。この使いやすさ、堅牢さ、低コストが噛み合ったボタンがその後のゲームコントローラのあり方を変えていき、35年の時を経てもなお色褪せないアイデアの原点がここにあるというのを知って、ゲーム&ウオッチ版として「ドンキーコング」が生まれて本当によかったなと思うのです。
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2017年現在、ゲーム&ウオッチのドンキーコングを遊ぶなら
大ヒットした本作ですが、さすがに35年前の実機を楽しむというのはなかなか難しい状況です。
通販サイトやオークション、フリマサイトで探すのが比較的入手できる確率が高いですが、爪部分の欠け、液晶の劣化などもあり、コンディションが良いものに出会うためには運やタイミングも重要かもしれません。
その他、安価に入手できるゲーム&ウオッチ「ドンキーコング」としてはゲームボーイおよびニンテンドーDSに移植されたものがあります。
ゲームボーイ用ソフト「ゲームボーイギャラリー2」では「パラシュート」「ヘルメット」「シェフ」「バーミン」と共にドンキーコングが収録されています。
このゲームボーイギャラリー2は「1画面のゲームボーイでどうやってマルチスクリーンを再現しているのか」という大きな疑問がわきますが、その答えは「Bボタンによる画面切り替え」となっています。1画面内に大小2画面分の画面を表示して、Bボタンを押すことでどちらかを大きくするという仕組みで1画面にマルチスクリーンを閉じ込めました。手軽でもあり、そのアイデアは買えるのですが、ことマルチスクリーンのタイトルを遊ぶことに関しては、あまりおすすめはできません。
やはり現時点で快適なゲーム&ウオッチのドンキーコングを楽しむなら、ニンテンドーDS用ソフト「GAME&WATCH COLLECTION」でしょう。こちらは非売品で、2006年にクラブニンテンドーの景品としてポイント交換配布されたものですが、2017年現在でも比較的潤沢に市中在庫が存在しています。
「オイルパニック」「グリーンハウス」といったマルチスクリーンの作品と共にドンキーコングが収録されています。
明るく大きな2画面でこのドンキーコングを遊んでいると、ゲームというものがものすごい勢いで進化したこと、またいい意味で変わらない本質的な楽しさがあることを思い知らされます。過去に実機で遊んだという方は、きっとこのDS版を遊んで、懐かしさと共に今でも通用するゲームの楽しさを感じられることでしょう。
今回は「バーチャルボーイ」「テンビリオン」に引き続き「ドンキーコング」を遊んでみました。横井さんのアイデア、ユーモアの数々を知るたび、もっともっと横井さんが生み出すゲームを遊んでみたかった、という気持ちがわきあがってきます。
次回は、横井軍平さんを偲ぶシリーズの〆として、数々のヒットを生んだ横井さんが任天堂を出て最後に残した作品たちを振り返ってみたいと思います。
それではまた。