遊ぶ? それとも飾る? テンビリオンのこと
先日は20世紀のバーチャルリアリティ「バーチャルボーイ」にスポットを当てましたが、そこでは横井軍平さんの遊びに対する感性が光るなぁとあらためて感じた次第です。
というわけで今回は、1997年に逝去された横井さんを偲び、関わりのある品を少しだけご紹介したいと思います。
今回は、1980年に任天堂から発売された立体パズル「テンビリオン」のこと。
(今回のテンビリオンの写真は「未開封品」であり、実際には円筒形のケースから取り出して遊ぶものとなります。ご了承ください)
ルービックキューブのブームは多くのフォロワーを生み……
ルービックキューブと聞いて「懐かしい〜」という感想が出てくる世代というのもまぁまぁ上がってきていますが、あまりご存知ない方向けに簡単に説明すると、3*3のブロックを持つ立方体の各面を、ブロックを組み替えて色を揃えるという立体パズルです。2017年現在でも一般に販売されているので、目にした事のある方も多いのではないでしょうか。
ルービックキューブは日本では1980年にツクダオリジナルから発売されるや否や大ブームとなり、本家ルービックキューブはもとより、多くのフォロワーを生みました。ブロックの数をかえたもの、棒状にアレンジしたもの(マジックスネーク)、またこれらがカプセルトイとして子供たちでも手の届く品として出回っていたものです。カプセルトイでフォロワー(悪く言えば模造品)が出るというのは、当時としてはある意味ブームの頂点と言ってもよいくらいの出来事でしたね。
そうしたルービックキューブフォロワーのひとつが任天堂から発売された「テンビリオン」です。ブロックの集合立方体であるルービックキューブに対し、テンビリオンは樽型の透明な筐体に色付きのボールが並ぶという「ルービックキューブのフォロワーと呼ぶにはあまりに異質な何か」でした。
共通しているのは、筐体パーツを回転させて色を揃えるということ。しかしながら、小さな部屋を行き来するカラフルなボールは、ルービックキューブに勝るとも劣らない「テンビリオン」というオリジナルな魅力を見せてくれたものです。
そうそう、テンビリオンとルービックキューブの共通点は、触っている時の楽しさや、ガチャガチャと触った挙句にとっちらかって、元に戻せなくなるところもありますね。
美しい「悪魔の石」の前に敗北
そんなテンビリオンですが、横井さんによると「はっきりいってルービックキューブの真似」であり「作った本人が解き方がわからない」という、パズルとしては実に雑(失礼)な思想で作られていたそうです。
今ではネット上に解法が紹介されてもいるのですが、当時はあまりの難しさに問い合わせも多かったのか、攻略法の紙面も一緒に流通していたようですね。とはいえ、現在もその解法を見てもパッと理解するには難易度も高く、手詰まりとなった方も多いのではないでしょうか。かく言う私も……その1人です。
書籍「横井軍平ゲーム館RETURNS」では、このテンビリオンを紹介したドイツの書籍に、ドイツでの商品名が「悪魔の石」であることが書かれていますが、まさに悪魔の名がふさわしい難易度で世界のパズルファンを巻き込んだことがわかります。
パズルの皮を被ったおもちゃ?
さて「悪魔の石」とまでの異名を持つテンビリオン、なぜこんなに難しいのに人気となったのでしょうか。横井さんはルービックキューブを評してこう語られています。
パズルの面白さというよりは、あの機構の不思議さが受けたんじゃないでしょうか
(「横井軍平ゲーム館 RETURNS」57ページより引用)
これはまさに慧眼という他なく、ルービックキューブがパズルファンのみならず広く受け入れられた本質的な部分だと感じるのです。我ながらアホかと思いますが、未だにルービックキューブがどういう機構なのかよくわかっていません。わかっていませんが、あれをカチャカチャ回していることが妙に楽しいことだけは間違いない事実なのです。
テンビリオンの素晴らしいところは、表面的な「色合わせ」の要素こそルービックキューブを真似たものではあるものの、全く別の機構を生み出したところにあると思います。
ドーナツ状の透明なドラムパーツの横回転と、プランジャー(中心部の芯部分)パーツでの縦移動、その組み合わせでめまぐるしく入れ替わるカラフルなボール。実際の機構と動きを抜き出せばこんな感じなのですが、実際にテンビリオンに触れた方であれば、文字や動画では伝えることができないあの独特な感触があることに同意していただけるのではないでしょうか。
こんな事を書いていて、これって何かに似ているのでは……と思い出したのは、2017年に日本でも流行した「ハンドスピナー」でした。ただ単に回すだけのこのおもちゃも、手先に感じる楽しさが広く受け入れられたものですよね。こうして思うのは、テンビリオンはもちろん「立体パズル」ではありますが、その根本は、触って楽しい「おもちゃ」なのかな、ということなのでした。
そう考えると、やっぱり当時の「玩具メーカー」任天堂らしさ、「アイデアマン」横井軍平さんらしさをあらためて感じます。
21世紀に蘇ったニューバージョン「スターテンビリオン」
オリジナルのテンビリオンは前述の通り1980年の発売ですが、2007年にはクラブニンテンドーでのポイント交換景品としてリニューアル版となる「スターテンビリオン」が登場しました。こちらはドラム部分がオリジナルの樽型から文字通り星型に変化。中のボールも透明なものに変わり、よりスタイリッシュになりました。
オリジナルテンビリオンの「楽しい」「難しい」部分はそのままに、任天堂の歴史の一つが蘇る逸品でありますね。
残念ながらスターテンビリオンは2013年には生産が終了、そしてクラブニンテンドー自体も2015年9月にサービスが終了しています。
幸いにして2017年現在もわずかながらに流通しており、各種通販やオークション、フリマサイトで入手できるようです。興味を持たれた方は、ぜひ早めに入手しておくことをおすすめいたします。昔遊んだ方にはあの頃の懐かしさを、初めて触る方には新鮮な感触を味わっていただけるものと思います。
バーチャルボーイに端を発した、横井軍平さんゆかりの品についてのお話。次回以降ももうちょっとだけ続きます。
それではまた。