もうちょっとだけ、バーチャルボーイのこと
前回の「22年目の初体験! バーチャルボーイのこと」に引き続き、ちょっとだけ延長戦です。
前回は主に「レッドアラーム」を通して体験したバーチャルボーイについてでしたが、今回は「バーチャルボーイってなんなんだろう?」と考えたお話になります。
3DSにも無い、バーチャルボーイのエッセンス
さて一般的にバーチャルボーイの弱点としてよく言われる「一人用筐体=バイザー」と「赤単色LED」ですが、実はこの2点こそがバーチャルボーイが持つ他にない表現力の源のようです。
手元にある「横井軍平ゲーム館 RETURNS」ではバーチャルボーイについて以下のように語られています。
真っ暗であれば、人間は無限遠を感じてくれるんですね。しかし、液晶でグレーの基本画面が見えてしまうとそうはならない。そこでLEDを使ったのです。これだったら、無限遠を表すことができるんです
液晶の場合ジャギーで同じ線に見えない。(中略)同じ解像度だったら、液晶よりLEDの方がはるかに有利なんですね
真っ暗闇だったら、画面の枠を感じさせない
(「横井軍平ゲーム館 RETURNS」164ページより引用)
フィルムアート社
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正直なところ、この本を読んだ時=バーチャルボーイを未体験だった時は、さほどイメージがわきませんでした。それが今この段階で読み返すことで、これほど端的にバーチャルボーイの特徴・強みを表すものは他にないのではないかとすら感じます。
もちろん現在の技術や3DSも、大きな進化を遂げてよりよいものを実現しています。ただ、それでも22年前、プレステ・サターン時代、任天堂で言えば64前夜の時代に、ここまで全く新しい楽しさを指し示したというのは驚きです。
3D立体視って面白いの? >> 扱い方次第ですよね
ただ、実際にいくつかのタイトルを遊んでみて感じるのは、先に3DSについても語ったのと同じように、必ずしも3D機能を使い切ったものばかりではないということです。極端な話、レッドアラームはワンダースワンの「グンペイ」であり、ゲームボーイの「テトリス」のような、そのハードの象徴たる存在でしょう。国内19本のソフト全てがこれほどの水準であればもう少し違った未来があったのかもしれませんが、そもそも現在に至るまで3D立体視というのは非常に扱いが難しいのではないかなと感じました。
面白いのはゲームであり、見せ方であり、立体視そのものではない。考えてみれば当たり前ではありますが、22年を経た今でも、その当たり前がどれほど難しいものかと思い知らされます。
ここまでの本文では3D立体視について否定的な発言が目立つのですが、個人的には3DSにおける立体視利用の傑作として推したい「だるめしスポーツ店」など、決して現在の3D立体視についても悲観しているわけではないということも合わせて書き残しておきたいと思います。
余談ではありますが「だるめしスポーツ店」は非常によくできた3D立体視利用(奥行き感の工夫)のほか、本能的な「快感」を呼び起こす演出、ダウンロードコンテンツの在り方など、非常に語るところの多い一作です。ぜひまた別の機会に書いてみたいと思います。
バーチャルボーイは「ビデオゲーム」だったのか
よく言われるように「バーチャルボーイは商業的に失敗だった」ということに関して、そんなに多くの反対意見は無いのではないかと思いますが、それはどういう意味で失敗だったのでしょうか。世界累計出荷台数77万台と言われるバーチャルボーイですが、ここでの失敗はいくつかの意味があり、ひとつは当然見たままの販売台数としての失敗、もうひとつは期待された市場を作り出せなかったという意味での失敗ではないでしょうか。この2つは同じように見えますが、特に後者については任天堂ハードとして非常に重い期待を背負っていたというのは想像に難くないと言えます。
ファミコンを経てゲームボーイ、スーパーファミコンという大きな市場を作った任天堂として、次の一手がこういった結果になってしまったのは、確かに残念なことであります。
しかし、実際にバーチャルボーイを手にして、遊んでみて思うのは「これってビデオゲームなのかな?」という素朴な疑問でした。もちろん分類としては家庭用据置機としてカテゴライズされるのはわかります。でも、なんと言っていいのか、80年代を知る世代としてはこれはいつか見たFL管ゲームに近い何かではないのか? 学研のパックモンスターやフロッガーで遊んだ記憶が揺さぶられる、そんな気持ちでもう一度バーチャルボーイを見ると「これはビデオゲームじゃなくて、おもちゃだったんじゃないか」という気がしてならないのです。
今でこそビデオゲームメーカーとしての任天堂を強く感じますが、今は昔の時代を振り返ると、任天堂というのは数々のアイデアでチャレンジを続けたおもちゃメーカーでもありました。バーチャルボーイの生みの親、横井軍平さんによる「ウルトラマシン」や「光線銃シリーズ」といった一連のおもちゃの未来としてバーチャルボーイがあったとしたら、台数のことはともかく「期待された市場を作り出せなかった」の部分を背負わせるのは、なんだかかわいそうな、そんな気がしたのでした。
語り継ぎたい、この体験
そんなこんなで思うままに書いてきましたが、やっぱり思うのは「体験してよかった」ということでした。デジタルデータであるビデオゲームは比較的アーカイブもしやすく、メーカーやファンの手で後世に受け継がれていますが、残念ながらバーチャルボーイについてはその特異なハードウェアから実機での体験以外ではなかなか伝わりません。
ここまででバーチャルボーイが気になった方には、是非ご自身で体験していただけたらと思います。あのバイザーを覗きこんだ時、きっと「わっ!」と言っていただけるのではないかと。
それではまた。
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