ワンダースワンとGUNPEY、へのへののこと
「バーチャルボーイ」をきっかけに「テンビリオン」「ゲーム&ウオッチ ドンキーコング」と横井軍平さんの足跡をたどったここ数回のtee-suzuki.comですが、ここで一旦〆たいと思います。
最後に取り上げるのは「ワンダースワン」と「グンペイ」です。
横井イズムを体現するような存在となった「枯れた技術の水平思考」の塊である2つのプロダクトを振り返ってみましょう。
ワンダースワンとバンダイ、コト
ワンダースワンというハードは、一般にバンダイのものとして語られる事が多いかと思いますが、その源流は1996年11月、横井さんとバンダイ石上さんの話の中で生まれたとのことです。これが翌1997年1月に「スワン・プロジェクト」として立ち上がりました。任天堂退社後に横井さんが興した会社「コト」とバンダイによるプロジェクトです。
のちの歴史でわかる通り、1999年のワンダースワンデビューまでに、プロジェクトは横井さんを失うという大きなアクシデントに見舞われます。その辛い状況の中、バンダイ・コトの両者が大きな責任とプライドを持って作り上げたのがワンダースワンでした。
このワンダースワン誕生までの道のりは「ワンダースワン 公式ガイドブック」に詳しく記載されていますので、興味のある方は是非ご覧になってください。
単三電池1本、モノクロディスプレイ、縦横持ち
ワンダースワンより5ヶ月ほど前の1998年10月に発売されたゲームボーイカラーは、その名の通りカラーを大きく打ち出したゲームボーイの正統進化でした。対するワンダースワン陣営の特徴は「単三電池1本、モノクロディスプレイ、縦横持ち」でした。
ディスプレイこそカラーではありませんが、圧倒的な電池寿命、軽量化、低コスト化が計られており、ゲームボーイ後の携帯ゲーム機として独自の道を切り拓いたことは間違いありません。
縦横持ちというのは、のちにニンテンドーDSやPSPも一部のタイトルで採用されますが、設計当初から縦横持ちを想定していたワンダースワンは、この一見無謀な遊び方を無理なく実現させています。
「ライムライダー ケロリカン(2000年/バンダイ・七音社)」のように「斜め持ち」が出てくる事になるとは想像されていなかったのではないかとも思いますが……。
個人的にはかなり遊んだのが「GUNPEY」と「クレイジークライマー」だったため、一般的な横持ちよりもむしろ縦持ちハードという印象が強くあります。
人差し指と手のひらでがっちりホールドしつつ、親指での操作。横井さんのアイデアの一つ「十字ボタン」こそ採用されていませんが、独自のボタンの触り心地は決して悪いものではありませんでした。
長い電池寿命と相まって、いつでも触れる気軽な携帯ゲーム機として楽しんだものです。
音量調整がボリュームダイヤルではなく3段階のボタン調整だったことで、電車内であの「ギュイーーン!」をスピーカー部分を押さえて消音したり、これまでのハードになかったパーソナライズ機能にちょっと心躍ったり……。
わかりやすい最新のテクノロジーが提示されているわけではなかったため、世間の誰もが飛びついた、というわけではありませんが、ワンダースワンというハードは、遊んだ人に「おっ」と思わせる部分が本当に多い、そんな一台でした。
ともあれ、ワンダースワンはローンチタイトル「GUNPEY」と共にデビュー。横井さんのその名を冠したタイトルがローンチタイトルとなったのは、関係者の皆さんには感慨深いものだったのではないでしょうか。
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「GUNPEY」の原点「へのへの」
ワンダースワンの代名詞と言っても差し支えないほどのゲーム「GUNPEY」ですが、その原点がいわゆる「キーチェーンゲーム」にあったのをご存知でしょうか。
1990年代後半、たまごっちが大きなブームとなったことをご記憶の方も多いかと思いますが、テトリスやインベーダーなどのゲームを移植したコンパクトなキーチェーンとつなげたゲームも多くありました。これは、ゲームボーイなどの自由にグラフィックが描けるものではなく、ゲーム&ウオッチのように決まった表示の組み合わせを表示するもので、要するに廉価なゲーム&ウオッチでした。筐体もボタンもよりチープ、でもそれゆえの手軽さが何よりの魅力であったように思います。
そんなキーチェーンゲームのひとつが「へのへの(1997年/ヒロ=販売・コト=制作)」です。
キーチェーンゲームには前述のようなテトリス、インベーダーといったスタンダードなゲームから、キャラクターものなど幅広い内容のものがありました。中でもへのへのはシンプルなキーチェーンゲームの中にあって高いゲーム性と完成度、というかほぼGUNPEYというゲームです。GUNPEYとの違いはいわゆる後付けの連鎖が無いことと、不思議な魅力のあるキャラクター「へのへの博士」でしょうか。
シンプルなラインとへのへの博士が、小さな液晶画面で動いている様はまさにゲーム&ウオッチの魂を感じさせ、ゲームボーイという新次元を経験してなおアイデアで楽しませてくれる。まさに「枯れた技術の水平思考」を具現化したタイトルだと感じました。
これまでも、これからも。
バーチャルボーイをきっかけに、横井軍平さんの足跡を少しだけたどってみましたが、横井さんの広くて深い「遊び」に対する思いを垣間見たような気がします。
横井さんがいなくなってずいぶん時が流れましたが、私たちは今もまだまだビデオゲームを始めとした遊びを楽しんでいます。愛すべきたくさんのゲームを作ってくれた横井さんへ敬意を表しつつ、きっとこれからもたくさん生まれるであろうゲームに、私たちは夢中になる。そんな気がするのです。
それではまた。